2020


★オンライン学会に参加して 2020.11,12

 

 11月14日に日本堆積学会2020年オンライン大会がありました.今年から行事委員を務めることになり,対面での学会開催が困難だと判断された頃から半年以上かけたメールの打合せにも参加し,当日もSlackの掲示板機能を用いつつ,裏方に努めました.半日のみのコンパクトな学会でしたが,Zoomを駆使して口頭発表とポスター発表,そして懇親会まで無事に行うことができました(学会直前にブレイクアウトルーム機能が更新されて参加者が自由にルーム間を行き来できるようになったことは行事委員にはとても嬉しいことでした).オンライン懇親会では”オンライン島根巡検”も開催され,野外巡検もままならない日々を改めてもどかしく感じました.それでも遠方の研究者の皆さんと会話ができた時間がとてもありがたかったです.
 年の瀬迫る12月26-27日には,日本第四紀学会のオンライン大会が開催され,ポスター発表で参加しました.八王子市北浅川に露出する山田層の堆積環境についてオンラインで多くの方と意見を交わすことができました(宇津川のコアタイムにお越し下さった皆さん,ありがとうございました).1時間半のコアタイムは正直長かったのですが,濃い時間でもありました.
 学会は対面が当たり前でしたが,対面とオンラインのハイブリット型の学会も可能なことがわかりましたし,発表方法や形態も工夫次第でもっと面白くできるのではと感じました.いくつかの”気付き”のある学会でした.けど,やっぱり私は対面で学会に臨みたい派ですね(巡検つきで笑)


★デリバリーカレッジ@三郷 2020.11

 

 立正大学の地域連携の一環で,いくつかの自治体に教員が出向いて講義をする”デリバリーカレッジ”という企画があります.予め事務に提出した講演概要を基に依頼を受けて実施されるようなのですが,この度,三郷市からの要請を受けて出前授業をしてきました.

 三郷市では「みさと生きいき大学」という名前で生涯学習の場が設けられているらしく,宇津川の前週には経済学部の先生によるご講演があったようです.宇津川の講演は「石の”声”を聞く―河川~海浜環境と社会ー」というタイトルで,レキ女がレキについて熱く語る90分となりました.正直なところ独りよがりにならないか,つまり川のレキの話を面白いと思ってもらえるか,なかなか不安になりながら準備をしていました.宝”石”のように見た目に輝いているわけではありませんので…

 オンライン授業では見えない”聴講者の反応”に「やはりこうでなくては!」と思いながら20名近い方々に,岩石の分類やかたちからわかること,宇津川が普段考えていること等々をお話しました.宇津川コレクション(写真)をいくつか持って行き,講演でも用いました.講演の後,聴講者の方々と(密に気をつけながら)お話ができたこともとても嬉しく,ありがたい時間でした.貴重な機会に感謝です.

(裏話)「三郷JCTの”三郷”かぁ」と講演のお話をいただいたときにふと思いました.当日,早めに外環道を走っていましたが,下りる予定の三郷西ICが超渋滞をしているのを横目にいつの間にか通過.通るはずのなかった三郷JCTで流れに乗って常磐道へ.渡るはずのなかった江戸川を渡り,流山IC経由で三郷入りしました.外環道,手強かったです(そして流山ICに深く感謝).

 


★地理基礎巡検@狭山丘陵 2020.10

 

 後期が始まって,相変わらずのオンライン授業が行われる中,幸いにも日帰り巡検は対面で行うことができました.着任1年目と2年目は羽村で行ってきた地理基礎巡検を,今年度は狭山丘陵で実施してみました.昨年9月の下見がなかなか楽しかったものですから(昨年度の動向で報告しています).「地理基礎巡検」は対1年生用ということで,学科の先生方全員が様々なコースを用意し,学生は前期と後期で各1回ずつ受講して巡検の基礎を学びます.今年度は人数制限の関係もあり,抽選も一部行われましたが,なかなか贅沢な授業だなと(教員のひとりですが)思います.

 宇津川のコースは「トトロとたどる狭山丘陵の地形と街とひと」というタイトルで行いました.通称”トトロ巡検”です.これでもか,という青空の下,久々に学生たちと野外を歩きました.トトロの森1号地から始まり狭山湖でお昼,狭山丘陵いきものふれあいの里センターまでは地形図を片手に学生に”道案内”をしてもらい,荒幡富士経由で西武園駅まで歩きつつ,狭山丘陵周辺の地形と土地開発について学んでもらいました.バス利用を控えたこともあって歩かせすぎてしまいましたね.そこはちょっと反省です.
 私自身が学部1年生のときに出席した巡検地(の一部)をこういうかたちで学生と巡ることができたことはとても感慨深いものがありました.

 


★束の間の(自分のための)野外 2020.9

 

 移動制限が解除されても,授業期間中はなかなか野外に出ることはままなりませんでした.ようやく夏季休暇に入り,ふと機会があって予てより気になっていた群馬・三波川(さんばがわ)に足を運びました.三波川は神流川の支流で,片岩(へんがん)に富む地質帯「三波川帯」の由来となっている川です.調査というよりも地質図を見ながらの”自主巡検”のようなものでしたが,いくつか礫サンプルを入手できたのは嬉しかったです.ちなみに,夏補講(ひとつの下の記事)でこの礫たちを紹介しようと画策していたのですが,残念ながら今年の受講生に礫愛を伝えることは叶いませんでした.

 また9月末には,茨城・日立の海岸へ向かいました.研究室の後輩の調査に度々ついていって知った場所で,海成段丘を構成する礫層に惹かれて調査を始めていました.潮位を調べて海岸に向かったものの,波が高めであまり長い時間崖にいるわけにはいきませんでした.別の場所からアプローチをしたり,やや離れた場所を調査したり.思い通りにはいきませんでしたが,けれど新たな視点も得ましたし,何より久々の潮風と礫層の感触に安堵するものがありました.
 野外に出てとりあえずの”栄養補給”を終え,2期を迎えています.過ごしやすい気温の良い時期となりましたが,今はさすがに外に出られそうにありません……次はいつになるか,です.

 

 

 

 


★夏補講がありました 2020.9

 

 9/1まで続く1期の授業を終え,学年暦上では束の間の夏季休暇となりました.1期は原則オンライン授業のために実習をすることができませんでしたが,今年度は特別に「夏補講」として対面による実習用の期間が設けられました.

 宇津川が担当する「自然計測実習」の夏補講も2日間行われました.初日の午前は気象観測,2日目の午前は植生調査,両日の午後は興味のある分野の実習を自由に選択してもらい,個人またはグループで取り組み,最後に成果発表を行いました.敷地の広い熊谷キャンパス内には演習林もあり,植生調査実習も土壌調査実習も構内で行うことができます.密を回避しながら,実習を楽しんでもらえたかと思います.
 自由選択の実習では,実体顕微鏡での鉱物観察,偏光顕微鏡による鉱物・岩石薄片観察,土性調査,水質調査,植生調査にそれぞれ取り組んでいました.”礫女(レキジョ)”としては礫を語る場がなくて少しだけ寂しく思いつつ,一方,限られた時間の中で協力してどのようなデータをどのようにとるかを試行錯誤する様子や,楽しい成果発表の様子を見ることができてよかったです.
 他学年と話をする機会も得られたかと思います.受講者の皆さんにはこの濃い2日間を今後どこかで活かしてもらいたいと願っています.


★今更ながら,秩父・長瀞 2020.6

 

 立正大に着任して,秩父をぐっと近くに感じるようになりました.実習以外の時にももう少しいろいろ見ておきたいと思いつつなかなか……県外移動は厳しかったですが,9月に行う夏補講の実習の下見を兼ねて,車で秩父~長瀞を訪ねました.
 段丘地形や植生の観察場所,河原の様子,方々を下見をして回り,程よく汗をかけました.やはり外は良いです.ついでに,予てより気になっていた”取方の大露頭”と”紅簾石片岩”を訪ねました.”取方の大露頭”は傾斜不整合の観察には良い場所です(荒川の支流沿いのためやや遠方にはなります).秩父ジオパークのジオサイトのひとつですが,説明看板一切が見当たりませんでした.川沿いがあれていましたので,昨年の台風19号で被害に遭ったのかもしれません.”紅簾石片岩”は岩石もロケーションも大変素晴らしいところでした(もっとしっかり看板をたてて駐車場も整備すればよいのに).紅簾石と白雲母が眩しく,荒川の碧さとよく合っていました.

 帰りに長瀞の岩畳に寄ったのは,学生から台風19号で様子が一変したという情報を得ていたため.さすがに半年以上経っていますので多少風雨で流されたのでしょうが,荒川との比高が10m以上ある岩畳の上にしっかり増水時の砂がたまっていました.なぎ倒された低木も多々.果たして9月の実習では生で紹介できるか.そんな身勝手な思いも抱きつつ,梅雨とその後の夏本番で,今年は災害をもたらすような豪雨が起きないことを祈っています.


★ふと,3年前 2020.5

 

 5月が終わります.窓から入ってくる風がまだ心地よいです.もう少し,太陽の光も浴びた方がよいかもしれません.調査・巡検に行けるわけでもなく,次々とやってくる”授業準備の波”にのまれかけています.スライドに解説文をつけたり,オンライン用の小テストや課題を考えたり.大変だな,と感じつつ,割と教材の”工夫”を楽しんでもいます.対面授業が再開した後でもきっと役に立つかな,と(でも,やっぱり対面がよいです.学生の顔が見えないのはつらいものがあります).

 授業資料には自分で撮影した写真をできるだけ使うようにしています.HDDを漁っていたところ,ちょうど3年前に多摩川の上流”丹波川(たばがわ)”へ調査に行ったときの写真が出てきました.塩山側から青梅街道に入って奥多摩湖に抜けるルートだったと思います.花崗岩体に会いに行っていました.青葉と水面にうつる木漏れ日もすっかりご無沙汰です.道中立ち寄ったわらび餅のお店にはまたいつか行きたいものです.

 フィールドが,恋しい…

 


★論文が出ています 2020.4

 

 予てから,このサイトにはもう少し学術的な記事を書いた方がよいのでは,と思ってはいたのですが,なかなか実行に移せずにいました.失念していたわけではないけれど,昨年度2本論文が受理されていましたのでこの場でもお知らせします.

 

①宇津川喬子・白井正明 2019. 河川砕屑物の生産―運搬過程における破砕・摩耗作用の特徴:砂礫の岩種,粒径および円磨度の関係. 堆積学研究 78: 15-31(査読有)※まだPDF化はされていません

 博士論文の一部になります.査読者との熱い熱いコメントのやりとりもあって,日の目を見るまでに時間がかかりました.その分,思い入れのある論文です.

 河川を運ばれていく砂礫には破砕(壊れる)や摩耗(磨かれる)の両作用がはたらいています.どちらの作用でも細かい粒子を生産することから,円磨度(粒子の丸み)を調べることでその生産過程を捉えられるか,と始めた研究です.調べる岩石の種類を壊れにくいチャートと壊れやすい頁岩(泥岩)の2つに限定し,サイズも径0.5mm~約13cmまでの砂礫を8区分して,1区分50~200粒くらいの砂礫の円磨度を調べました.栃木県佐野市を流れる秋山川(昨年の台風で破堤…)と鹿沼市の粟野川が調査対象です.秋山川は修論からのつきあいです.

 幅広いサイズの”円磨度”と”チャートと頁岩の個数比(ch/sh)”を調べたところ,細粒ほど円磨度が低く,ch/shが小さくなったことから(変化がなければ壊れずに運ばれているだけ)粗い粒子が破砕・摩耗して細かい粒子に混ざったことを示すと解釈しました.

 礫が壊れて徐々に小さくなっていって砂,でも間違いではありませんが,壊れていきながら砂も生産している(壊れ方も様々だから生産される粒子のサイズも様々)点がとても面白いのです.

 

②Utsugawa, T. and Shirai, M. 2020. Sedimentological characteristics of gravels on refreshed gravel bar by Typhoon 1721 in the middle of the Tama River, central Japan. Geographical Reports of Tokyo Metropolitan University 55: 13-21.(査読無) ※PDFはこちら

 2017年の台風21号で増水した多摩川の河原@羽村市で観察された微地形を,首都大(現:都立大)の紀要に報告しました.これも私の中ではひと悶着したので,無事に掲載されてよかったと安堵しています.
 河原にも高低差があって,基本的に水際ほど低くなっていることが多いです.そこで①水際と②河原の高水敷(増水時だけ水を被るところ)で礫の円磨度を調べてみたところ,①水際では大きめな礫(径6~13cm)よりも小さな礫(径1.6~3cm)の方が角張っている礫が多かったのですが,②高水敷ではあまり変わりませんでした.水際と高水敷では礫にはたらく破砕・摩耗の作用が異なったのかもしれません.一般的には「粗い粒子は丸くて細かい粒子は角ばっている」とされていますので,その傾向を示している水際の方が,礫の調査地点としてはよりベストともいえるかと思います.

 

 思うように外に出られず(河原は3密にはならないとはいえ)河原と緑を恋しく思う今日この頃です.


★多摩川河川敷@羽村での礫調査 2020.2

 

 2019年台風19号(先日,気象庁に「令和元年東日本台風」と命名されました)の増水によって改変された多摩川河川敷を,上陸した10月から継続して調べています.微地形の変化や礫の分布など,見るところはそれなりにあり,限られた時間の中で(機械で整えられてしまう前に)コツコツ調査を続けています.

 2月中旬には,立正大の学生4名(1年生1人,2年生1人,3年生2人)にも手伝ってもらい,羽村の河川敷に再堆積した礫の調査を行ないました.予報では「春の陽気」でしたが,当日はさほど気温があがらず,調査終盤に差した日の光に温かみを感じました.羽村市史編さん事業第4部会長にもご足労いただき,2グループに分かれて効率よく礫をランダムサンプリングしました.礫径の測定・記録・礫の写真撮影を交代して学生に取り組んでもらい,大変だったとは思いますが,割と楽しめてもらえたようです.交通費とお昼代くらいしか出していませんが,それでよかったかな?

 個人的には,また他の調査にも一緒に行けたらと思っています.

 北浅川の露頭.調査先は基本的に”3密”とは程遠い場所ばかりですが,

 都外・県外ナンバーをつけた車の移動にはどうにも気を遣います…

講演で大活躍してくれた”レキ”たち.

ご褒美をあげたいと思いますが,何なら喜んでくれるでしょうか…

(水晶と琥珀は大学所有の”リアル教材”をお借りしました)

狭山湖の堤を見上げて.

セイタカアワダチソウの黄色が青空に映えていました

三波川にて.片岩のはがれやすい面が河床と平行のため”板”状に見えます

小貝ヶ浜にて.花崗岩由来の白っぽい砂のビーチが綺麗な所です

植生調査を遠くから.

樹高や胸高直径の計測,樹種の同定などをグループで行いました.

(写真中央に土壌調査で掘り返した跡が…)

節理(斜めの線)から左半分は右半分に比べてやや赤みががかっています.
付近の地質図によると紅簾石片岩(左)と黒色片岩(右)

長瀞・岩畳.ポットホール(昨年の「最近の動向」参照)の数が少ない,と感じたので埋まったのかもしれません.

写真の川がいずれ丹波川になります

猫は友情出演です.大変水の綺麗な川でした

         栃木での調査風景(2015年5月撮影)

   コドラートを設けて,礫をランダムサンプリングします.
   ひとりではどうにもならない研究なので,調査・分析ともに先生・

   先輩・後輩にとてもお世話になりました.本当に感謝しています.

   (水切りも堪能できましたよね,きっと)

渡良瀬川にて(2015年8月)

秋山川も粟野川(思川の支流)も渡良瀬川水系になります.

水際で猫と一緒に調査をしたのは,今のところこの時だけです.

羽村市の河原と濁流の多摩川(2019年10月)

2017年に調査した河原は2019年台風19号でリセットされました.

けれど,これが河川本来の姿といえます.

    1.5~3cm程度の礫を1m×1mの区画の中でサンプリング中.

     砂岩を見る目はきっと養えたはず(第4部会長撮影)